変える 変わる : 園庭二題2021年04月01日





改修前




再び 西京区のみつばち保育園にやって来ました
これは 小さい子用の洗い場

ヒノキをふんだんに使った木造園舎に
似合わないブロック塀のような洗い場は
足場が狭くて使いにくい上 死角も多く
ちょっと暗いコーナーになっていました





改修前








改修前





改修のきっかけは
コロナ禍での洗い場の充実はもちろんですが
構造的に 
コンクリートに体を擦りながら水を求めるしかない 
小さい子どもたちの動きと
水の出方  …拡散するシャワーではなくて  
流れ落ちる水の感触 の大切さを
丸国園長にお聴きしたから


浮かんだヒントは
清水寺の音羽の滝でした






改修後





それで こうなりました

自然の素材感覚を大切に
太い栗の木と ぽくぽくとした御影石(花崗岩)を使って作りました











子どもの姿を隠さず 周囲にもストレスを与えぬよう
5ヶ所の給水を 風化した遺跡のように柔らかく
ミニマムにしつらえました
床面積を5倍に広げて
0歳児室から外の水場や砂場まで 
ハイハイでもスムーズに動けます



一筋の滝は
太い栗の木の中をくぐり抜けた水が 
上から落ちて来るしかけで
子どもたちは自分で
手元のかわいいハンドルを使って 
滝の水量を自由に調節できます
管理用のバルブも設置して それぞれの水圧も調整可能






改修後




出来上がってみると
昨年作った藤棚の下で
小さい子どもたちの露天風呂 大人の昼寝や
水圧をかけて滝修行?にも良さそうな
明るく愉快な遊び場になりました


今度はテラスの拭き掃除が忙しくなるかも…







園長のブログより







みつばち園長のブログより





子どもたちのいろんな様子を
たくさんブログに上げてくださいました
ありがとうございます







半年後

  半年後の風景







     *               *               *






さて もうひとつは 開園10年目を迎える
右京区の みつばち菜の花保育園です


かつては青々としていた芝生山も 事情により年長児にも開放したので
あっという間に ごらんの状態


あなたがこの子なら 何をして遊びますか?



改修前




もっと大胆に広く使って
ひとりひとりの状況に応じて 
色んな遊びが浮かぶ庭にしましょう
ということになりました





改修後




左の0-1歳児の建物と土山とを ヒノキのぬれ縁で床との段差なしに接続し
造成した低い山々をつなぐのは 太い八角名栗の一本橋

橋は景観の要(かなめ)として 園庭全体に 自然な落ち着きと楽しさも演出します
栗との対話から生まれる伝統的京名栗 独特の素材感は心とカラダにもおすすめ (できるだけ はだしでね) 
ただの止まり木やベンチ代わりでもいいし ジャンケン遊びでもいい
尺取虫になってみるのはどうかしら 遊び方は無限です

18ミリ厚アルミ板を加工した基礎で 
橋の位置も変えられます





改修後




さらに 年長児用と年少児用それぞれに 
登れる樹形の 太くて大きな樫の木を 2本用意しました
( 京都木村農園と仲西造園の知恵と力で搬入植栽できました 感謝です‼︎)





ひっそりと遊べる植栽




また 四季の変化や実を楽しめる中低木を増やして
疎密のメリハリをつけ 狭くひっそりと遊べる木陰も複数確保
眺めるだけでも楽しい緑のグラデーション





園庭全景




大きくなったコミカンの木を慎重に移動し
開園来 格好だけで使えなかった手洗い場も撤去して スペースを作り
年長用の綺麗な洗い場を新設 広くて使いやすく年少にも人気です
(この洗い場はタップルート岡村氏の設計 増田組の施工)


狭いと思っていた園庭は
ほんとはこんなに広かった⁉︎







春のエントランス


        新緑のアプローチ








          *               *             * 





ところで
植物にとってみると 園庭は
根元を踏み固められて根呼吸は困難になり 枝は折られ 未熟果はむしり取られ
草も生えないほど 不自然で過酷な現場です 
優しい姿でも 彼らは必死にそこに立っているのです


木登りするなら1年後から 
できるだけハダシでお願いします
保育園では登る頻度が激しくて 
靴では樹皮が剥けてしまいます


木々が大切に愛されて 
みつばち本園の銀杏や 西山園舎の大桑のように
人間の子どもたちの育ちを 
受け止めてくれるような関係になることを
願うばかりです …







西山園舎の大桑2






はっぱのおまつり

    
         



大桑の木を剪定すると 
子どもたちは手に手にその枝をひろって 
輪になって踊りだしました
「はっぱのおまつり」だって
アフリカにいるみたい!










土に願いを:乳児の瞳に映る宇宙2020年02月18日




    陽だまりに大根吊るす保育園。
    


大根干しがよく似合う






昨秋より、園の休日ごとにコツコツと外構を改修させていただきました。
現場は、2001年に開園した京都市西京区のみつばち保育園の本園です。
開園20周年を機に、見直したいという相談を受けていました。




2001年開園当時のみつばち保育園

(2001年開園当時のみつばち保育園本園。更地の園庭。)




一般的に建物ばかりに目が行きがちですが、保育現場の外構は、常に0歳からの子どもたちが、自然を見て、触れて、舐めて、登って、こころを形成しながら育つ場所です。普段にもまして、自然な材料、安全で肌になじむデザイン、使いやすく、楽しい配置の設計、そして施工の全てにプロの質と配慮が求められるのは、あたりまえ、ですね。
庭と建物を有機的につなげることは、茶庭にも通じる造園の基本でもあります。
今回改修したのは、おもに次の3ヶ所です。





            ❶         ◯        ◯




Before 


門扉の現状


これまでに、4回以上壊れて作り直されて来た門扉は、そのたびに、20年前の設計と同じデザインで新しく作り替えられるのを目撃して来ました。2012年、右京区に開園したみつばち菜の花保育園(→拙稿)の門扉も、同じデザインで、開園数年後には壊れて、これまた同様に更新されています…。何の縛りでしょう?  素材は輸入材(米ヒバと中国産の竹)で出来ています。
現行は設計屋や建設会社を通さず建具屋に変えたようで、当初のデザインを踏襲しつつ枠を太くするなどの工夫をして、それまでよりは長く持ちましたが重くなり、子どもたちが扉に乗っかる事を想定した強度まではありませんでした。




After 


栗の門扉




みつばちのレリーフ




素材は栗の木。頑丈な木組に、大きなゴムのキャスターを付け、乗っかられても平気。
栗の木は丈夫で腐れにくく、古くなるとさらに表情が出て、やさしい木のぬくみは消えません。
庭や建物にあわせながら、シンプルで安心感のある落ち着いた風景を意識しました。また長く愛着を持ってもらえるように、ミツバチのレリーフも入れました。
扉本体の制作は、京都の数寄屋建築の老舗も頼りにしている伝統工芸士 おさむ工房にお願いしました。





    ◯        ❷        ◯





Before 


自転車置き場の現状


こちらは保護者の自転車置き場。





駐輪の現状


コンクリート基礎に小さな板石を等間隔にあしらって埋め込んでありますが、その洒落た段差のおかげで、子どもを乗せた自転車のスタンドが立てられません。スタンドはいつも桂徳小学校の通学路である道の上でした。






斜めの扉が作ったデッドスペース


さらに、斜めに設置された輸入材(米松)の扉のため、広い三角形のデッドスペース(どうにも使えない空間)を生み出していました。
設計者は自転車置き場で何がしたかったのかな? チコちゃんに叱られるよ。





After 



石畳の自転車置き場



整形して駐輪場を広げました。殺風景なコンクリートや砕石敷ではなく、落ち着いてあたたかみのある石畳に。道路のレベルに合わせ、目地も工夫し(蒲鉾型黒目地)、段差はありません。
左右の足元には季節の草花も咲くように。
真ん中に出来たマンホールは最終雨水桝。地中に埋没していたのを工事中に発見、セットしなおしました。




自転車も楽にスッキリと。





扉の向きと位置を変えた


三角形のデッドスペースも解消。私の3tトラックも楽に駐車できるほどの広さに。





栗の扉にミツバチのレリーフ


通用門は正門とおそろいの栗の門扉。美しい杢目、ここにもミツバチのレリーフを。
もちろん、丈夫なキャスターも付いています。さっそく目の前で登られましたが。





     ◯   ◯        ❸         






Before 


0歳児室側テラスの現状


0歳児側テラスの様子。専用の柔らかい砂場も正面にあります。





0歳児前テラスの現状


左が0歳児、向こうにホールという配置。
玉すだれのように吊るしてあるのは、子どもたちが収穫し、結び、干したタマネギ。





After 



ここに新設したのは、軒から続く京都産ヒノキの長〜い藤棚。
棚には微妙な勾配をつけて、雨水が伝い建物が濡れるのを防ぎます。



0歳児室の藤棚完成


おや? こっちを見てるね!

テラスの柱を掘り筋交(すじかい)で支える、単純な構造ですが、大人がぶら下がっても十分な強度があります。今後子ども達や保育士に、どう使われるかわかりませんから?





軒先藤棚


向こうのホールからの景色も、優しくて落ち着いた雰囲気に変わりました。
広いテラスを含め、塗装はすべてひまわり油ベースのオスモカラー製品を、二度塗りしました。







木のそばで遊ぶのが好き



制作中は子どもたちや保護者から、なにしてんの?これなに? と質問責めでしたが
京都木村農園が鳴滝に持っていた、一本の表情のある藤を植えたとき、
園庭と園舎がひとつに繋がり、園舎にもいのちが宿りました。
保育園施設という機能的な箱が、地べたに暮らす家のぬくみを得た瞬間でした。







銀杏に挨拶する藤


植えられた藤は、この日早速、園庭のヌシである銀杏に挨拶をしていたようです。
0歳児たちのこころに、毎日繰り広げられる 宇宙=四季の変化 がどう映るか…
なんだか、わくわくします。







8カ月後
  
          ( 10/1 )





森のほいくえん?

         ( 2021/9/10 )

一年たつと、こうなりました。
ちょっと管理をサボった? はい
でも いい雰囲気!







     

のびろのびろだいすきな木:小浜白石2018年04月16日

    


            みんなみんながすき
            ひとりひとりがいきをしているから
            おうきなおうきな木
            そらにむかっていきをしているよ






谷へ。遠くに山桜が点々と残っている。



 有史以前から、大陸と繋がりを持ち、この国の文化や成り立ちに重要な役割を果たしてきた若狭。なかでも小浜市は山側に細かく伸びた谷に、古い縁起の社寺が無数にある不思議な地域です。

 そして近年、若狭は「原発銀座」として、何故か原発がない大都市の大量消費を遠距離送電で支えることを、強いられて来ました。
 
 その鯖街道ならぬ原発街道を走って、どうしても会いたかった木を、20年ぶりに訪ねました。
 行先は小浜の白石神社。
 道は広くなり、神社周辺もキレイに整備されていて、場所を間違ったかと思わず通り過ぎるほどでしたが、意中の椿は衰弱が目立つも、大きく腕を広げて森の中に立ってくれていました。





樹齢1000年をはるかに超える椿


樹齢1000年は軽く越えているだろう椿。成長はゆっくりの椿ですが、胸周りを測ってみたら、約235cmもありました。







精一杯広げた枝と美しい花。


頑張って伸ばした広い枝一面、星空のように花をつけています。








かつては広範囲に続いていた椿の森。



The camellia japonica trio とでも呼びたくなるような美しい椿たち。秀吉より前は、奥山まで広範囲に椿の森が続いていたそうです。今、誇らしげにそびえる巨大な椿は、この3本だけ。



森には、鹿に表皮を広範囲に噛じられて、立ち枯れてしまった幹周り50cm程の椿や、150cm程の伐り株もありました。
子どもの椿が見当たらないのは、全て鹿に食べられてしまうからでしょうか。それとも…  ?    







比較的元気な2本の椿


 見事な枝ぶり。一見元気そうですが、左右の椿の葉色の違いに注意 。








千年を経てもこの気品。


1000年以上繰り返し咲き続けている、やさしい花。若干細めの葉も特徴的です。







どこまでも高く伸びた枝に咲く椿。








横に伸ばした枝のやさしさ。


花は少し小振り。深い赤の発色も素晴らしく、気品と誇りに満ちています。








大きく垂れた枝に上品な花











Ageless love


白石神社の拝殿は、この建屋の中にあります。美しい根っこはタブノキ(椨の木)。敷地には椿よりもさらに巨大なタブノキが数本あり、幹回りは測っていませんが、どれも300㎝を超えていると思われます。
(タブノキは海沿いに自生する楠科の常緑高木で、若狭ではよく見かけますが京都市などの内陸部にはありません。アボカドの親戚、アオスジアゲハの好物、人は樹皮を線香の材料にしたり八丈島では樺色の染料にしたりします。)
 







白石神社


建屋の中には、白石大明神。
渡来人(唐人)姿の若狭比古神がここに降臨したという古い言い伝えがあり、大陸と奈良とを結ぶ伝承も豊富です。
表札(扁額)が新しくなってる。








雪の囲いに空けられた無数の穴。


建屋に空けられた、無数の穴。
キツツキにしては大きいし、ムササビかな?モモンガかしら? 
ここに住んでるのかな、
誰が何のために空けたのかわからないけど、奔放でリズミカルな穴に、得意げな顔が浮かぶ…







いっぱい穴をあけたのだあれ?










台に天保拾年と刻まれている。


 阿吽の獅子狛犬はまだ新しく、獅子の台石には天保拾年と刻んであります。
「大塩平八郎の乱」から2年後。江戸幕府が蘭学者を弾圧した「蛮社の獄」の年(1839)。
 苔が乗ってるせいか、ずんぐりとしてかわいい。








狛犬


 だらりと大きく垂れた耳、ピンと立つぶっといシッポ。









衰弱が目立つ右の最古の椿。


 ( 右の注連縄の椿は衰弱、葉色が怪しいのは真ん中の椿。中央足元に覗く超巨大な幹はタブノキ。 )




 神宿る椿森の白石神社。
周辺がすっきりと整備されて森も明るくなり、クルマも止めやすくなったけど、衰弱を見せる太古の椿にとっては、風当りや乾燥、そして地球温暖化による異常気象も気になります。

また椿は、桜のように根の呼吸が活発で、人間の踏圧による地面の固化や除草剤による衰弱、枯死といった事例も少なくないのですが、少しホッとしたのは、20年前も今回も、観光客が一人もいないことでした。








この20年の間にすっかり整備されてしまった。


 誇り高く貴重な母樹の森がかろうじて残っている中、周辺や近年新調された巨大な石碑などに添えて植栽されていた椿たちは、花が大きく花弁も多い派手な園芸品種でした。
 こんな風な、妙に押しの強いデコレーションは、「観光地」では割と見かけますし、石碑や看板に書かれていることも参考にはなります。しかしこのアンバランスな不自然さを割り引いても、椿の衰弱を前に私には違和感が残ります。



1000年の愛を失わないために、今ほんとうに必要なことは

  1. 踏圧対策 (注連縄の椿周辺を立ち入り禁止に
                           して根を守る)
  2. 土壌改良 (椿は特に「アルミナ」アルミニウム
            を含むミネラル分が必要です。良質
                           な有機肥料や腐植等もあわせて広範
                           囲に施肥)
  3. 鹿対策     (景観に配慮した地味なフェンスを
                           遠巻きに、等)

この3つと考えます。

もちろん、急激な地球温暖化を招いている、私たちの便利快適な消費生活を根底的に見直すことや、私たちにとって幸せとは何かと、自らに問い続けることは大前提ですが。

これから先もずっと、椿の森が続きますように。







千年椿の株基


 この椿に会えば、きっと貴方にも深いやさしさが伝わります。

 






あたたかい冬飾り : 西京2015年01月06日

銀杏の葉もだいぶ萎れてしまったが…みつばち保育園


想像してみてください。


会議に疲れた夜の帰り。
ふと見ると、暗闇の庭でトウヒに飾られた黄色い落ち葉たちだけが、
揺れながら光っています。


街灯のほのかな明かりをただ反射しているのですが、
彼女は、はっとしたと同時に
何か、あたたかいもので胸がいっぱいになったそうです。


原発事故からもうすぐ4年。
LEDの普及もあって青白い「電飾」がまた増えています。
樹木の電飾もキレイですが、木のやさしさや、ひとのぬくもりは伝わりませんね。

ほっこりの庭 顛末:伏見2014年11月26日





伏見稲荷の近く。
粋な町屋風でバリアフリーの建物は 地域で評判の
「稲荷の家ほっこり」 (社会福祉法人 京都老人福祉協会 )  





稲荷の家ほっこり外観。松が枯れている。
 

(心になじむ民家風の外観。肝心の松が枯れている。)








板張りの中庭。向かい側にはベッドの個室もある。
  

      (中庭)

板張りの広い中庭や、奥深い施設の隅々まで、ゆっくり見学させていただきました。 
子育て支援事業も行っており、地域の子どもたちも出入りして 開放的で明るい雰囲気です。








子どもたちのスペースもある。


(2階には地域や子どもたちのためのスペースも)






所長以下、スタッフはとてもお忙しそうですが、気さくな配慮が心地よく利用者の笑顔が印象的でした。 

で、その庭。
――― 井戸水を循環させた流れを飛石で巡る形式で、 年4回プロの造園業者が年間契約で管理していますが、松が枯れても何ヶ月も放置され、手入れも雑で庭が荒れて困っています。―――
 と、かねてより相談を受けていました。 




庭へどうぞ


どうぞ、と言われて庭に入ったとたん 私は流れに足がハマってしまったのです。 
  
水面を覆う水草と、庭中に繁る水生植物パピルス(アフリカ原産シュロガヤツリ)で、地形がよくわかりません。
灯籠は傾き、土がドブ臭い。ビオトープかな?にしてもお粗末です。  








松の根元にまで繁るパピルスや水草
 

(ドブ臭い湿原と化した庭)



左手奥の一番低い場所 ! に植えられた松の根元にまで繁茂するパピルス。
流れの水が漏れだして数年が経過と見られ、庭中が湿地帯の様相です。
松は当然のように枯れていますが、漏水に比例し相当な時間をかけて上の方から、じわじわと枯れたはずです。 
きっちり「年間管理契約」をして、年4回も植木屋に入ってもらっているなんて、とても信じられない風景です。






2階から庭を見る
 

      (2階からの眺め。湿原に枯松。)



所長や現場スタッフの思いをお聞きしながら、一度具体的な提案をさせていただくことになりました。


** 庭の半分以上は、整地して家庭菜園(畑)を **

庭部分を最小限に縮め、「流れ」も分厚い遮水シート工法で大幅にショートカット、手押し車でも楽に入れるように枝折戸や飛石等を全廃し、門からの導入部は石畳に、水辺にはパピルスではなく杜若(かきつばた)や蓮、藤袴などの花を
と、ご提案申しあげました。

新規の開設を控えた理事会のご返事は、「その予算を組む余裕はない」とのことでした。





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手入れで、地形を出してみた。



数ヶ月後、所長の奔走のお陰で
とりあえず「庭の手入れ」に入ることになりました。

手入れと言っても、伸び放題だった生垣の高さを大幅に下げ、不要な植栽や大量のパピルスの根を撤去し、盛り土に植えられて水死を免れた樹木を整枝、傾いた灯籠を起こし、水草を取り、本来の地形をはっきりさせただけです。
ここまではたった1日、1人工の仕事です。

たっぷりと湿っている庭土がはっきりと見えましたが、これで問題もはっきりしました。

① 老人が利用する庭として、この障害物の多い設計をちゃんと検討しましたか?
  ( 少なくとも施設スタッフと現場で意思疎通を図ったとは思えません )

② 竣工後6、7年以内での水漏れ、窒息=根腐れによる松の衰弱や枯死にさえ気付かず、放置したことに管理契約上の責任はないのですか?





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依頼した側の理事会でも上のような意見が出されるようなら、「プロ」の業者も少しは緊張してレベルアップするかもしれません...... が、これらは全て技術以前の問題ではありませんか?

 日本一植木屋(造園業)の多い京都には、素晴らしい庭を作る尊敬すべき職人がたくさんいます。その職人の町を支える専門的業種の豊富さや世界的なレベルの高さも、京都人の誇りです。ところがそういった取引先でも、かつては考えられなかったような非常識な事態が現場で起きていると、耳にすることがあります。

 知らないことは謙虚に人に聞く。あたり前のことですが、昨今この国では首相を先頭に、謙虚さのかけらもなく無知を開き直りますし、高慢に知ったかぶりをするかと思うと、知らなかった想定外だと原発事故の責任さえウヤムヤにしてしまいます。
このような政治が作り出した『何でもあり』の風潮では、地道な職人はなかなか育ちませんし(資格を取れば食べていけるという職業ではありません)、このまま行くとレベルの低下はさらに底無しのような気がします。








台風18号と大クワノキ:西山2013年10月09日


 9月17日、京都では珍しく、避難を呼びかける電話が鳴り続けた緊張の一夜が明けると、沓掛のみつばち保育園西山園舎から、園長の悲壮な声で一報。
 あちこちの土砂崩れや河川の決壊箇所の情報も入らぬ混乱の中、迂回を繰り返して法人の理事長を乗せ、現場に辿り着くと、みつばち保育園の大看板クワの木が二股の根元からパックリと割れて倒れている。(「この素敵な足のために」参照)

 たいせつな運動会を5日後に控え、いつものことだけど、対応は緊急を要した。




台風18号で倒れた、西山園舎の大クワ




二股の幹の大きい方は根元もパックリ




≪ これまでの30年、これからの30年 ≫

 捨身のリーダーが中心となって築いてきた30年。法人化のあと、これから若い世代にどうバトンを渡してゆくのか、次の30年をどう描いてゆくのか… それは、つまるところ若い人たちが自分たちで考え、作りだしてゆくしかない。
 この西山園舎は近年、努力を重ね敷地を広げたが、途中で放置されそのまま荒れた部分もあったり、手軽で便利なキャンプ場のような使われ方をされたりで、子どもたちの大切な場所にしてはまるで遺産を食いつぶしているような妙な状況になってきている。世代の節目の時期にさしかかって、保育園では議論を起こそうとしていた。

 保育園の人気の樹木は、連日の踏圧で固められ根呼吸もしんどく、非常に過酷な状況を覚悟しなければならない。山や庭とも全く条件が違うし、寿命にも影響が大きい。
 苗木を植え30年。この木は子どもたちに愛され、12mの高さにまで育った。登りやすいように剪定や施肥を繰り返してはいるのだが、一方で太い枯れ枝も目立ち始め、ちょっとくたびれた体に鞭打ちながらも、子どもたちを両手に抱えたり、木陰で守ったりと、一緒に遊びながら嬉しそうに立っていた。

 
 起こして、残った根の量にふさわしく、ぐっと小ぶりに整姿剪定し、たくさんの頑丈な支柱で支え、土壌改良して、養生のため柵で囲い立ち入り禁止にする… 樹木治療としては基本だが、いつも子どもたちに囲まれて共に育ってきたこの木がそういった対応を望んでいるだろうか? あるいは、そんな形になってまで遺産にしがみつくのは、常に前を向いてきた「みつばち」らしくないと……

 これまでの30年をシンボライズする木が倒れたのは、次の30年を具体的に考えてもらういい機会ではないか。残念だが思いを切って、伐るべし。
根も全て掘り取り、更地にして、次の30年に向かって新たな風景を若い人たちに、今度こそ本気で描いてもらおう。
ここで本園の運動会があるので3日以内に作業を。

園長、理事長、私の話し合いは、こういう結論になった。




小さい方(高さ10m)は起こして固定、大きい方(12m)はそのままで整姿とした。




しかし結局、私には伐ることはできなかった。
園長、理事長の覚悟ともいえる決断を裏切ってしまったが
倒れても、傷ついても、かっこ悪くても、人間の子どもたちと生きてゆく…
それが大クワの意志ではないかと思えてきた。

 パックリと裂けて倒れた太幹はかえって動かさない方が、かろうじてつながっている根を傷めない。芝生山に向かって倒れているので、それなりに安定しているから、最低限の剪定と傷ついた根元を改良土で保護すれば、このままなんとか生きてゆけるかもしれない。
 あこがれのクワの木が横になってくれて、これまで登れなかった年中以下の子どもたちでも登れるかたちに。複雑な枝ぶりは、自然のジャングルジムであり、立体あみだくじである。心配そうな子どもたちに、だいじょうぶ登っていいよと声をかけると、たちまち鈴なりになった。

 もう一方の、小ぶりな方は引き起こし、6mの檜丸太で三方からしっかりとスマートに支えた。小ぶりといっても10mほどある。いくつもひび割れた地面は改良したが、あえて立入防止柵は設けず、すぐに年長に登ってもらった。以前よりも数段難しくなったが、慎重に考えながら時間をかけててっぺんまで登ってくれた。すばらしい!
子どもたちは、いろんな遊びを工夫し始めた。倒れた幹でなんとカマキリのレースもやったのだそうだ。
大クワは最後まで子どもたちとふれあう道を選んだ。

 園長、理事長にもご納得をいただいた。園長はレイアウトが大幅に変わってしまった運動会の場で、保護者たちにも趣旨を丁寧に説明してくださった。

 それにしても、こんな保育園って、きっとどこにもないだろうな…
 折りしも、中秋の名月。台風18号でずいぶんひどいことになっていた京のまちだが、西山からの眺めは美しかった。



西山からの眺め。仕事を終えると中秋の名月、中央左に京都タワーも見える。





    



 …… そしてこれが その8年後の姿。

勝手な「園の都合」で一杯だった私たちに
このままで共に生きようと
心に直接働きかけるほどの
強烈な意思を示した大クワは
私たちの想像を遥かに超えて
子どもたちに素晴らしい応えを見せてくれています。

スローガンではない
ほんとうの「生きる力」を。


この木なんの木?