炭窯とセメント袋:佐分利川2020年11月23日






佐分利川(60歳)
   

      佐分利川 (60歳)






釣り客の車が のんびりと前を通る度に 
警棒にヘルメット姿の 屈強そうなガードマン達が 
仁王立ちで一斉に睨みつける
異様な空気が怖い 関西電力 大飯原子力発電所


その福井県おおい町を東西に流れ 原発の海へとそそぐ
おだやかな風情の佐分利川
古くは鮭漁も行われていたという この川の上流の谷に
若狭で評判の 心優しい絵描きが住んでおられました


16歳から炭焼き 山仕事に田仕事
さらに31年間 
雨の日も雪の日も続けた大飯郵便局の請負配達
保育園児や村の子どもたちの絵画指導もしながら
渡辺淳さんは 病床の義父を30年支え続けました






晩歌(38歳)
   

     晩歌 (38歳)





コマーシャリズムに流されず
「画壇」の脚光を浴びる事も良しとせず
よく働き 地域の人々に慕われた彼は
故郷の山河を描き続け
3年前の夏 86年の生涯を閉じました






うつむく (19歳)
  

   うつむく (19歳 セメント袋 ) 





若き日 広げたセメント袋の裏に
クレヨンと水彩で描いた絵は ほとんどカビと
ネズミの巣の材料となり
ボロボロにかじられながらも
かろうじて3枚ほど残っていたといいます


誰に教わった訳でもない
誰に見せる訳でもない
「ともかく描きたかった。
描いて、自分のみじめさ、哀しさを打ち消す
激しい何かを探したかった。」
     ( 渡辺淳「山椒庵日記」)







くさむらの譜(46歳)
   

       くさむらの譜 (46歳)







ボールペン マジック クレヨン 水彩 コンテ 油絵具
手に入るどんな画材を使って何に描こうが その深さに
私は 魂の日本画だと感じました
どこかの退屈な展覧会など 吹っ飛んでしまうほどの







伊太郎と窯(34歳)
   

     伊太爺と窯 (34歳)






生きる場所も方法も画材も全く異なりますが 
秋野不矩さんの絵にもどこか通じるような 
温みのある視線を感じます
母なる自然やいのちへの 素直な祈りとおそれ
「この谷の土を食い この谷の風に吹かれて生きたい」

絵とは 自然の中で生まれる思想です



山椒庵と呼ぶ 佐分利谷の薄暗い画室を 
美山町から不矩さんが訪ねて来られたこともあったようです
85年には京都で 不矩さん 水上勉さん 灰谷健次郎さん 田嶋征彦さんらと「土を喰う日々 五人展」を開催されたという記録もありました



「現代作家たちが忘れた 土の根にふれた
確かな画業を確立している」(水上勉)








佐分利川の月 (27歳)
  

      佐分利川の月 (27歳)






印刷では表情も輝きも伝わりませんが
少しでも関心のある方には 是非本物を見て欲しいと思います
アフガンの土に沁みいる中村哲医師の笑顔のように
うつろな心を揺さぶる まぶしいほどの月の光を







        ( リンク先のポスターはpdfファイルです )

  ( じゃくしゅういってきぶんこ )
   JR小浜線若狭本郷駅より福鉄バス大飯中学校前下車3分

  2021年1月25日まで
  火曜休館 一般300円
  中学生以下と70歳以上は無料





   ⚪︎     ⚪︎     ⚪︎






佐分利川の谷に生まれた水上勉さんが 
渡辺淳さんの協力も得て
地域の子どもたちのためにと 故郷に私費で作られた 
とても静かで居心地のいい大きな小屋です
彼が子どもたちに揃えてくださった素晴らしい絵本や貴重な出版物が驚くほどたくさんあって 誰でも座って閲覧できます
美味しいかけそば330円などの休憩所もあります


一つだけ欲を言えば とても広い庭のおとなしい植栽を  
もっと元気で自然に もっとワクワクするものに挑戦して欲しかったけど
よく管理されており これはこれでいいのかもしれません


水上勉さん亡き後も 工夫して維持されている方々の努力に感謝しています
常設展示も充実しており
時間が許せばゆっくりと過ごしたい 大切な場所です









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